Nothing to gain

得るものは何もない。

44.

ここ数年、好きな作家を聞かれた時に決まって答えるのが万城目学さん。

2008年に放送されたTVドラマ『鹿男あをによし』で、
“鹿が喋る“というインパクトの強い予告に惹かれて作品を視聴。
本当に1話目から鹿が喋っていて度肝を抜かれた……本当に喋っているとは。
しかし、不可思議なファンタジーであるはずなのに何故か現実感が薄れず、
曖昧な境界線が幅を持たせる世界観がとても魅力的で、一気に原作者である万城目さんに興味を持った。

『鹿男〜』は二作目の作品で、デビュー作は『鴨川ホルモー』。
これも京都を舞台に京都の大学に通う学生たちが「鬼」を操る競技を行う、
というなんとも説明に困るがとても楽しい青春群像劇作品。
(万城目さんの作品は読めば絶対面白いのに自身の拙い語彙力ではその魅力を説明できないのがもどかしい)
個人的にはこちらの作品の方がとても気に入ってしまい、最初は図書館で借りた原作を返却後に購入したほど。
その後も何度も読み返した。

そんな『鴨川ホルモー』は2009年に実写映画化と舞台化が一気に為された。
既述のようにこの作品が好きだった自分は、当然どちらも視聴と観劇。
これまでずっと文章だけで想像していた世界観が目の前に再現される様に圧倒されたのは、
今思えばあの時が初めてだったと思う。
(それまではどちらか言うと映画を見てから原作読んでいた)
媒体を変えて3次元化された作品だけども、どちらにも出演していたキャストが2人いる。


そのうちの1人が、芦名星さん。


経歴を見るとこの時点で既に色々な作品に出演されていたようだけど、
自分がちゃんとお顔とお名前を認識したのはこの作品。
美人でスタイルが良く、主人公・安倍の憧れの女性を素敵に演じておられた。
その後も多くの作品に出演し、最近では年明けの『テセウスの船』で若い過去と年老いた現代をきっちり演じ分けられているのを目の当たりにして、凄い役者さんになられたのだなぁと上から目線で申し訳ないが思ったものだった。

そんな芦名さんの早すぎる訃報を目にすることになるとは。
夕方飛び込んできたニュース速報の文面を読んだとき、思わず声が漏れた。
一部報道の内容が本当であれば、その判断に全くの赤の他人が意見を述べるのは躊躇われる。
でも、ただただ残念でならない。
来月から放送が開始される『相棒』の新シリーズにも出演予定だったと聞く。
また新しい芦名さんを見られる機会がすぐそこにあったのに叶わなくなってしまったことが本当に残念。

自分の好きだった作品を新しい形で届けてくれた信頼のおける役者さん、という認識だった。
何か苦しいことがあったのなら、今はそこから離れられて安堵されていることを願うしかない。
ご冥福を心よりお祈りいたします。